救われないラーメン

なんだかムシャクシャする日は、
大好物のラーメンを駆け込むことにしている。
ラーメンは、わたしにとって、
インスタントに心を満たす、精神安定剤なのだ。


仕事を切り上げ、戸越銀座にある
お気に入りの店に、足早に向かう。
ああ、早くラーメンが食べたい。

  

いつも、求めればすぐに応えてくれた。
端整で滋味深い一杯。
しかし、今日は違った。
門扉の前で立ち尽くす。
やたら達筆な「臨時休業」の文字。


なんでよりによって今日なんだ。
やり場のない悔しさを飲み込む。
いや、引きずっている暇はない。 
わたしには、今すぐラーメンが必要なのだ!


せっかくだから、いったことのない街に繰り出そう。
脳内データベースから、目当ての店をはじき出す。
電車に飛び乗り、二駅走る。


鼻息荒く向かったその先には、大行列。
お喋りをしている、若い女性が多い。ざっと30分。
一刻も早くラーメンを流し込みたいわたしに、そんな猶予はない! 

(ラーメン屋でお喋りする女子、団体さん、なぜか苦手なんだよなあ。)


善は急げ。ラーメンは急げ。
半分躍起になって、腹を鳴らせ汗をかき、一駅分、小走りで移動する。


しかしながら、現実とは非情なものだ。
灰色のシャッターには、「夏休み休業」の貼り紙。
昔ながらの煮干し中華そばを象徴するような、固く結ばれた文字。


ああ、これほどまでに欲したラーメン。
まさか、三度も拒絶されるとは。
ラーメンに、振り回されているわたし。
健気に奮い立たせた火が、今にも消えそうだ。
ラーメンよ、あなたはどこにいるの。

ついてないじゃあ、もはや釈然としない。
この不運の連続の先に、素敵な幸運があるはずだ!


微かな期待を胸に、
結局、すぐ傍にあったラーメン屋に立ち寄る。

 
きっと、とんでもなく美味しかったり、
とんでもなく店主が素敵だったり、
するんでしょう?


震える手で、古ぼけた食券機のボタンを押す。
反射的に、一番上に配置された、味玉ラーメンに手を伸ばしたときには、もう遅い。
しまった!わたしは、ラーメンに味玉を入れない主義なのに!
悔しい!やっぱり、ついてない!

(こういうラーメン屋たまにある。味玉が標準装備とみせかけて、下に小さく普通のラーメンのボタンがあるんだよなあ。)

待ちに望んだ、インスタント精神安定剤に、
申し訳なさそうに、味玉がのっている。
味玉に罪はないが、なんだか、居たたまれない。


「味玉もらうよ」
横にあなたがいてくれたら、
万事解決なのだけど。


ああ、ラーメンよ。
救いを他者に求めてるようじゃ、いつまでたっても、成長しないね。
自分のモヤモヤくらい、自分で解決しなきゃ。


泣きそうになりながら、ラーメンをすする。
そのラーメンは、やさしい味で、
ちょっぴりしょっぱい、涙の味がした。



ごちそうさまでした。